大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和57年(あ)987号 決定

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張であり、弁護人田中清治の上告趣意は、憲法三一条違反という点を含め、その実質はすべて事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

なお、原判決の是認する第一審判決によれば、被告人は、弁護士である被害者の勤務する弁護士事務所において、同人が携行する訟廷日誌、訴訟記録等在中の鞄を奪い取り、これを二か月余りの間自宅に隠匿し、同人の弁護士活動を困難にさせたというのである。右のように、弁護士業務にとつて重要な書類が在中する鞄を奪取し隠匿する行為は、被害者の意思を制圧するに足りる勢力を用いたものということができるから、刑法二三四条にいう「威力ヲ用ヒ」た場合にあたり、被告人の本件所為につき、威力業務妨害罪が成立するとした第一審判決を是認した原判断は、正当である。

よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(安岡滿彦 横井大三 伊藤正己 木戸口久治)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例